【コラム】インドネシアの伝統的なマッサージ療法「pijat(ピジャット)」

豊かな文化遺産で知られる島国インドネシアは、マッサージ療法においても長い歴史を持っています。今回のコラムでは、インドネシア文化の中において特に重要な意味を持つ「pijat(ピジャット)」(インドネシア語でマッサージの意味)についてご紹介いたします。

インドネシア語でマッサージを意味するピジャットは、国の歴史に深く根ざしており、心身の健康を促進する手段として、世代を超えて受け継がれてきました。ピジャットの起源は古代の伝統にまで遡ることができ、8世紀後半から築かれたと言われるジョグジャカルタの有名な世界文化遺産ボロブドゥール寺院遺跡群のレリーフには、頭、手、足のマッサージなど、複数の女性からさまざまな施術を受ける男性の姿が描かれています。ピジャットは、長い歴史の中で、インドネシアがまだ存在しない時代、その地域で権力を持っていた王国と他の国や地域との交易を通じて、中華系民族やヨーロッパの貿易商などさまざまな文化の影響を受け、現代のインドネシア文化において欠かせない一部となりました。

ピジャットは、西洋医学が普及する前から民間療法としてインドネシアの人々に愛されてきました。以下の通り様々な種類があり、それぞれが独自の効果と文化的意義を持っています。

目次

1. リフレクソロジー(Pijat Refleksi)

リフレクソロジーは、足や手の特定のツボに焦点を当て、内臓機能や血行を改善し、頭痛や疲労を緩和することを目的としています。特に体力を使う仕事、重労働や力仕事に従事する人に人気があります。

2. カッピング(Bekam)

アジアを中心に、東欧、中東、中南米において民間療法として行われているカッピングは、吸い玉療法という別名でも知られています。皮膚に密着させたガラス玉カップを使い、筋肉や血液を刺激し、痛みや緊張を和らげる効果があると言われています。一方、カッピングをめぐっては科学的根拠やその有効性を疑問視する声もあり、見解が割れています。

3. 腹部マッサージ(Pijat Perut)

へその周りにある「pulung ati(プルン・アティ)」というツボを刺激するマッサージで、腹部膨満感、下痢、おならが出にくいなどの症状を緩和する効果があると言われています。

4. ウルット(Urut)

ウルットは、上記のいずれのマッサージより更に強度を加え、しっかりとした圧をかけるマッサージです。極度の疲労回復に特に効果的と言われています。

ピジャットの効果は、肉体的なリラクゼーションだけにとどまりません。ストレス解消、血行及び体力の改善、心拍数や血圧の正常化、免疫機能向上等、身体面・精神面の両方における幅広い効果が証明されています。また、妊娠中の女性、関節炎、古傷、慢性的な痛みに悩む人なども施術を受けることができます。一方で、出血性疾患、感染症、骨折、骨粗しょう症、血小板減少症、創傷治癒中の人など、特定の健康状態にある人にとっては、ピジャットに伴う潜在的なリスクに注意することが不可欠です。合併症のリスクを最小限に抑えるために、常に医師の判断のもと、資格のある専門家のマッサージサービスを受けることが推奨されています。

ピジャットはその効能のみならず、インドネシアの社会生活や家族生活においても重要な役割を果たしてきました。ピジャットの技法は世代から世代へと受け継がれ、家族間で互いにマッサージを施すことで絆を深め、皆の健康を気遣う文化が生まれました。このような世代間の知識の伝承が、ピジャットの文化的意義を維持し、インドネシア人の生活に欠かせないものとしてのその地位を確固たるものにしているのです。

近年、ピジャットはインドネシア国外でも認知されるようになり、その治療効果を目的とした海外からの観光客も増加しています。ウェルネス・ツーリズムへの関心の高まりは、インドネシア全土、特にバリやジャカルタといった人気の観光地のホテル、リゾート、スパでのピジャットサービスの普及にも繋がっています。これは地域のピジャット施術者に就労の機会を提供するだけでなく、インドネシア文化の世界規模での宣伝にもなっています。

しかし、ピジャットの商業化によって、その文化的信憑性や伝統的知識が失われるのではないかという懸念も生じています。ピジャットサービスの需要が高まるにつれ、海外のクライアントの好みに合わせて伝統技法がアレンジされ、その文化的意義が希薄化する恐れがあるのです。インドネシアのピジャット施術者とウェルネス・ツーリズム業界の関係者には、市場の需要に応えつつ、ピジャットの伝統性を維持することが求められています。

こうした懸念に対処するため、インドネシアではピジャット施術者の標準化と認定を推進する取り組みが行われてきました。インドネシア国家職業技能適性標準(Standar Kompetensi Kerja Nasional Indonesia, SKKNI)に新たにピジャット分野が設けられ、施術者がピジャットを安全かつ効果的に行うために必要な技術と知識を持ち、同時にその文化遺産を保護することを保証する一つの基準となっています。

ピジャットは、計り知れない文化的意義を有するインドネシアの伝統的なマッサージ療法です。インドネシア文化の欠かせない一部分として、時を超えて大切にされ、実践され続けています。皆様も、インドネシアを訪れた際は、旅の癒しを求めて是非ピジャットを受けてみてはいかがでしょうか。その際は、各々の健康状態を考慮した上で、SKKNI等の有資格施術者のいるスパ等で、安全かつ効果の高い施術を享受するようにしましょう。

弊社インドネシア総合研究所では、皆様のインドネシアでのビジネスや滞在にお役に立てるよう、インドネシアの文化にまつわる様々な情報を発信しています。定期コラム及びニュースの他にも、弊社のFacebookも是非併せてご覧いただけますと幸いです。皆様からのお問い合わせもお待ちしております。

参考
https://www.rri.co.id/index.php/kesehatan/532464/memahami-pijat-tradisional-dan-manfaatnya-untuk-kesehatan

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